近年、AIの進化やデジタル化の進展により経済・社会・産業構造が急激に変化する一方で、労働者の構成や意識も変化しつつある。
そんな中、厚生労働省に設置された「今後の人材開発政策の在り方に関する研究会」は、今年1月から6回の会合を経て、先ごろ『報告書』を取りまとめた。
この報告書では、今後の人材開発政策の在り方について、
(1) 個別化(個々の労働者・企業の状況に合わせた伴走型の支援を行っていく)
(2) 共同・共有化(産業・地域等の単位で複数の企業が連携して人材開発を行う)
(3) 見える化(労働市場および企業において、職務・スキル・処遇・人材開発の情報を開示する)
の3つの視点を持つことの重要性を強調している。
端的に言えば、「企業が人材開発に積極的に取り組むことを通じて、労働生産性を高め、その成果を処遇や人材開発に適切に投資することで、継続的に発展する」というのが“目指すべき社会の姿”ということだ。
それが、個々の企業やそこで働く労働者のみならず社会全体にとってもプラスに作用する。
なるほどたしかに、それは“理想的な姿”かも知れないが、現実には、「人材育成しても辞めてしまう」という理由で人材育成に消極的な企業も少なからず存在する。
しかし、この点に関しては、興味深いデータが示されている。
研究会資料によれば、
・「離職率が低い事業所はOFF-JT実施率、計画的なOJTの実施率が高くなっている」
・「離職率が低い事業所は、受講料などの金銭的援助をはじめ自己啓発への支援の実施率が高くなっている」
・「転職することを考えている者は、現在の仕事に役立つ能力を身につける機会に対する不満が強い」
とのことだ。
語弊を恐れずに言えば、「人材育成しても辞めてしまう」のではなく、逆に「人材育成に消極的だから辞めてしまう」のではなかろうか。
【参考】厚生労働省「人材開発と人材確保の関係」
また、この報告書では、AIの進化やデジタル化の進展に関して、「それらを駆使する能力」に加えて、「人の判断が求められる仕事」や「人でしかできない仕事」に求められる技能の重要性についても言及しているのが特徴的だ。
この報告書の内容は、労働政策審議会(人材開発分科会)へ報告され、具体的な政策に落とし込まれる予定だ。
「企業は人材育成に取り組み、労働者は自己啓発に勤しみ、国・自治体・業界団体はそれを支援する」という構図に異論を挟む余地は無いだろうから、それらを阻害する要因を排除する方向で議論されるものと思われる。
文責: 特定社会保険労務士 神田 一樹
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