従業員が“業務上の傷病”に罹ったときは、療養のために休業する期間およびその後30日間(打切補償を支払う場合や天災事変等により事業の継続が不可能となった場合を除く)は解雇できない(労働基準法第19条)が、その期間が経過した後、あるいは、そもそも“私傷病”であった場合は、解雇できるのだろうか。

 これに関しては、ただ「負傷した」または「病気に罹った」ということだけを理由として解雇することは許されないが、民法第541条・第542条は債務不履行または債務不能の場合には債権者が契約を解除できるとしている。
 すなわち、債務の本旨に従った労務の提供ができなくなった場合には、会社は労働契約を解除(解雇)することができると解される。

 ただし、その前に、自社の就業規則や労働協約や個別の雇用契約に特約があるかどうかは、しっかり確認しておかなければならない。 傷病休暇制度や休職制度が設けられているならそれらを使わせる必要があるし、解雇の事由や手順が定められているならそれに従うべきだからだ。
 ちなみに、休職制度の無い会社において該当従業員を休職させる(=解雇を猶予する)のは、その“特別な取り計らい”自体は、労働者にとって有利になるので差し支えないのだが、今後同様の事態に際してそれが“前例”となってしまうことには注意しておきたい。

 さらには、現在の担当職務ができなくなったとしても、短絡的に解雇を決定するのでなく、職種変更や就業時間短縮等の配慮を講じることによって雇用を存続させる方法を検討しなければならない(大阪地判H20.1.25、神戸地尼崎支判H26.4.22等)。
 もっとも、会社の規模や業態によっては「検討したけれどもその余地が無い」とか、「会社から提案した新たな条件に本人が同意しない」といったケースでは、解雇するという判断を下すのもやむを得ないだろう。

 では、従業員が病気や障害のあることを隠して採用された場合はどうだろうか。
 これも、そのことだけを理由に解雇することは許されず、労務の提供が可能かどうかで判断することになる。
 仮に採用面接で持病や障害について尋ねたのに隠していたとか「治った」と嘘をついていたケースであっても、それが「信頼関係を壊した」とまでは言えないなら、そのことを理由に解雇するのは難しい(仙台地判S60.9.19;賞罰歴未記入での解雇が無効)。

 いずれにしても、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない解雇は権利を濫用したものとして無効となってしまう(労働契約法第16条)ので、どのような事情があったにせよ、「解雇は最終手段」との認識をもっておくべきだ。
 さらに今日的には、社会全体の要請として、あるいは多様性が尊重されるなか、「治療と仕事の両立」への配慮が求められていることも、経営者としては頭の片隅に置いておきたい。



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