「事業性融資の推進等に関する法律」が今年(令和8年)5月25日に施行されることとなり、有形資産を持たない事業者(新興企業等)も資金調達が容易になるものと期待されている。
 具体的には、経営基盤やノウハウなどを含めた企業の価値を「企業価値担保権」として商業登記簿に登記することで、融資を受けられるようになる。
 そして、その“企業価値”には人的資源(従業員)も含まれるわけで、当然、そこには労務管理上注意すべきことがある。

 では、時系列的には逆になるが、まず、担保権が実行される場面から見ていこう。
 企業価値担保権が設定された債務の弁済が滞ったら、担保権者が裁判所に申し立てると、裁判所は「管財人」を選任する(破産のケースに類似)。
 管財人は、事業を解体せず、原則として事業を一体としてスポンサーへ承継し、債権者は事業譲渡の対価から債権回収する。
 事業を解体しないのだから、雇用も維持されるのが原則だ。 しかし、雇用契約は、新しい雇い主との間で個別に締結しなおすことになるので、すべての従業員が雇用を保証されるわけではないことを、労使ともに理解しておかなければならない。 もっとも、これは、企業価値担保権設定の有無を問わず事業譲渡の際には起こりうる問題ではある。

 次に、企業価値担保権が設定されている会社における労働関係について考えてみる。
 債務者は担保価値を維持保存する義務を有するので、例えば賃上げする場合や臨時賞与を支給する場合はそれが企業価値の向上に資するものでなければならない。
 債権者は取引上の優越的な地位を不当に利用して労働条件の引き下げ等を強制してはならない(銀行法施行規則第14条の11の3第3号)とされているが、金を借りている側(会社)としては貸し手(金融機関等)の顔色を窺いながらの判断を迫られるのは想像に難くない。
 なお、本来、債権者には“使用者性”は無いが、労働条件を決定する権限を有する場合は労働法上の使用者とみなされることがあるので、その点は承知しておきたい。

 そして、これらを、企業価値担保権を設定する際に、従業員に説明しておくのが望ましい。
 そもそも融資を受けることやどのような担保を提供するかについては経営判断に属するもので、従業員の口出しする話ではない。 とは言え、知らないうちに自分の雇用関係が担保の対象となっているというのは、働いている者にとって気分の良いものではなかろう。
 企業価値担保権の設定にあたって従業員の同意を求める・事前通知するといった法令上の義務づけは無いが、いずれ登記簿謄本を取れば知れることなのだから、初めから情報提供しておくのが、従業員との信頼関係を維持するためには得策なのではないだろうか。

 【参考】「事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針」(令和8年厚生労働省告示第11号)



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