現行民法第166条は、債権の消滅時効について、次のような定めを置いている。
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
1 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
2 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
(第2項・第3項は省略)
かつては、債権の種類によって様々な短期消滅時効が定められていたのだが、平成29年の改正で、「知った時(主観的起算点)から5年間」と「行使することができる時(客観的起算点)から10年間」とに整理されている。
この民法改正に合わせて、労働基準法第115条・労働者災害補償保険法(以下、「労災保険法」と略す)第42条も改正され、しかし、民法とは異なる消滅時効を定めている。
① ②以外の賃金請求権 → 3年間(労働基準法第143条第3項による読み替え)
② 退職手当請求権 → 5年間
③ 災害補償の請求権 → 2年間
④ 年次有給休暇の請求権(支分権)等 → 2年間
⑤ ⑥以外の労災給付(通勤災害に係るものを含む;⑥においても同じ) → 2年間
⑥ 障害および遺族に係る労災給付(葬祭料・葬祭給付を除く) → 5年間
特別法である労働基準法や労災保険法が一般法である民法より短い消滅時効を定めていること、しかも、いずれも(②・⑥を含め)「これを行使することができる時」すなわち「客観的起算点」のみ設定していることには注意を要する。
※ 話が複雑になるので本稿では詳しくは触れないが、健康保険や雇用保険の給付請求に係る消滅時効も2年間である。
ところで、これらの法改正にあたり、衆議院では労働基準法に関し、参議院では労働基準法と併せて労災保険法に関して、法施行後5年を経過したら(すなわち令和7年4月以降)消滅時効期間を見直すべき旨の附帯決議がなされている。
これを受けて厚生労働省に設置された「労災保険制度の在り方に関する研究会」が先ごろ取りまとめた報告書では、「消滅時効期間が2年である労災保険給付請求権(上記の⑤)のうち、脳・心臓疾患、精神疾患、石綿関連疾病等については先行的に消滅時効期間を5年に延長することが適当である」、「労働基準法の災害補償請求権(上記の③)についても労災保険給付請求権と同様に消滅時効期間を延長することが適当である」旨が建議されている。
一方、労働基準法の見直しは、今のところその途に就いていないようだが、労災保険法が改正される運びになると、それに連動して検討せざるを得なくなるだろう。
文責: 特定社会保険労務士 神田 一樹
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