雇用調整助成金(以下、「雇調金」と略す)は、経済上の理由で事業縮小を余儀なくされた事業主が、労働者を休業させる際の費用を助成し、雇用の安定を図る制度であり、「雇用の最後の砦」と言われる。
事実、リーマンショックの際やコロナ禍の際において、雇調金の支給要件を緩和することにより、初期段階の失業率の上昇を抑える一定の効果(完全失業率を1.0~2.1%ポイント程度抑制)が確認されている。
【参考】厚生労働省 > 報告書『緊急時における雇用調整助成金の在り方について』
しかし、特にコロナ期においては、「迅速な支給」が優先された反面、「雇用していない者を支給対象とする」「稼働していた日を休業したことにする」といった不正受給も横行したことが問題視されている。
令和7年末時点の統計では、支給取消件数は4,500件を超え、その金額は約1,138億円に達しており(同報告書より)、制度の根幹を揺るがす深刻な事態となっている。
雇調金を不正受給した企業は、
(1)「全額(不正受給でない部分を含む)の返還」+「2割の違約金支払い」+「年3%の延滞金支払い」
(2)不正受給日から5年間、雇用に関する助成金(雇調金に限らない)すべての不支給
(3)(公表基準に該当する場合)事業主名の公表
(4)(悪質なものや多額の場合)詐欺罪等での刑事告発
といった制裁を受けることになる。
上場企業にとって、特に「3」の事業主名公表は、社会的信用を失墜させ、株価にも影響しかねない。 東証スタンダードに上場していた総合衣料品卸の会社が、雇調金の不正受給を公表され(それ以外にも粉飾決算の発覚や経営者の逮捕等の要因もあり)、上場廃止にまで追い込まれたことは記憶に新しい。
“あぶく銭”に目がくらんで大きな代償を払うことのないよう、コンプライアンスを徹底するべきであり、もし過去に不正受給していたことが判明したら、労働局や会計検査院の調査が入る前に自主申告・自主返納することで社名が公表されることだけは防げるので、すぐに対処されたい。
そもそも雇調金はあくまで一時的な支援策であるので、経営者としては助成金に依存して現状を温存するのでなく、教育訓練や出向など、「雇用維持」の先にある「労働移動」を見据えた対応が必要だ。
不正をしてまで会社を延命させるのではなく、正当な手続きの中で「変化に対応できる強い組織」へと作り変える努力こそが、真の経営責任と言えよう。
文責: 特定社会保険労務士 神田 一樹
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